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広島地方裁判所 昭和28年(行)19号 判決

原告 合資会社勝光山鉱業所

被告 広島県地方労働委員会

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は向井毅雄の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対して為した別紙救済命令主文中『四、申立人のその余の申立は之を棄却する』を除く以外の命令は之を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因及び被告の抗弁に対する答弁として次のとおり述べた。

第一、原告会社は同会社の従業員であつた訴外加藤福夫、秋丸常雄、前門豊実、桂藤兼雄を昭和二十八年五月三十日、桑原恵文を同年六月十八日、大沢覚を同年六月二十日夫々解雇した。ところが右従業員等の加入していた訴外勝光山労働組合は原告会社を被申立人として被告委員会に対して右解雇は労働組合法第七条に違反する不当労働行為であるとして救済申立(広労委昭和二十八年不第六号不当労働行為救済申立事件)をなし被告委員会は、同年九月九日右申立に基き別紙記載の如き救済命令を発し、同命令書の写を同年十月二日原告会社に交付した。

第二、然しながら右命令には左記(一)乃至(三)の違法があるのでこれが取消を求めるため本訴に及んだ。

(一)  本件救済命令には当事者適格を有せざるものを当事者として取扱つた違法がある。

右命令は勝光山労働組合を申立人としているが同組合は右不当労働行為救済申立事件の申立人たりえない。即ち労働組合法第五条第一項には「労働組合は労働委員会に証拠を提出して第二条及び第二項の規定に適合することを立証しなければこの法律に規定する手続に参与する資格を有せず、且つこの法律に規定する救済を与えられない。」と規定されているが、勝光山労働組合は被告委員会の認定したように昭和二十八年五月二十六日結成されたものではなく、同年五月三十日夜始めて正式な結成手続を了したものである(五月三十日夜の結成手続についても疑がある)従つて五月三十日夜迄は、適法な組合は存在しなかつたから、五月三十日、原告会社が為した解雇については、解雇された従業員個人から救済の申立を為すは格別、組合が救済の申立を為すことは前記労働組合法第五条第一項に徴し許されない、されば被告委員としては組合の申立を不適法として却下すべきであるに拘らず之を却下せずして右申立を認容した命令は違法たるを免れない。

(二)  本件救済命令には不当労働行為でないものを不当労働行為であると認定した違法がある。

(イ)  右命令に於て、被告委員会は、原告会社が前記従業員加藤福夫外五名に対して為した解雇は、原告会社が企業合理化の為の人員整理に便乗し、実質的には、同人等が勝光山労働組合を結成するに際し、積極的な活動を為したことを理由とするものであつて労働組合法第七条第一号違反の不当労働行為であると判断しているが、右解雇は原告会社が企業合理化に伴う余剰人員整理の必要に迫られ、原告会社の解雇準備に則り該当者十三名に対して為したものであつて労働組合結成に関与したことを理由としたものではない。

即ち原告会社は、広島県比婆郡山内北村大字川北にある勝光山より産出する蝋石を採掘して一部は原石の儘販売し、一部はクレーに製造して販売することを主たる業務としておるものであるが、昭和二十五年七月頃、陶器用原石として差川の採掘を開始した時、地盤が硬質の為、中古の鑿岩機を使用採掘したところ、非常に能率を上げることが出来たので右鑿岩機を滝の谷採掘所に移し、之を機会に本格的に新式の鑿岩機を使用して企業合理化を計画することにし新しく購入した鑿岩機を昭和二十八年五月二十六日から使用することにした。右の計画を実施すると一台の鑿岩機で手掘の数十倍の能力を有し、然も常時二台の鑿岩機の運転が出来るので能率が上る反面、約二十名の過剰人員を生ずることになつた。原告会社は採掘費が同地区内の他の企業者に比較して一、八三倍乃至二、三七倍の高価であるところから採掘費を低減させる必要もあつたので人員過剰と相俟つて従業員の整理を決行することにし唯整理の時期を整理解雇される本人の利益を考慮して農繁期に入る前の同年五月末と決定した。

人員整理の基準は、欠勤の多いもの、比較的工場で不真面目なもの、比較的能率の上らないものと定め、現場監督の意見を聞き、或ひは、原告会社の鉱山事務所長矢野傑の意見に基いて十三名を人選した。

右十三名中前記従業員の解雇事由を説明すると、加藤福夫は運鉱夫であるが労働意欲がなく且つ非能率的であつて、他の従業員に対してはボス的存在である。運鉱夫以外には就労不適任者で原告の経営合理化後に於ては整理該当者なることは明らかである。

前門豊実は抗内夫であるが注意力散漫且つ作業行動が粗雑で屡々負傷事故を惹起し、鑿岩機使用に伴う共同作業に当つては、他の作業員に不測の危険を及ぼす虞れがあり農繁期には必らず休業するので共同作業運営にも重大なる不利益を蒙らしめる。

桑原恵文は、性格が粗暴で、他の従業員も同人との共同作業を嫌忌するので嘗て自動車助手に配置転換服務させたところ荷物の積卸の際粗暴性を発揮し、屡々荷物の損傷事故があつた。

大沢覚は坑内夫であるが体躯が矮短であり、作業能率が不良であつて採鉱を機械化して緊密な共同作業を必要とする場合に於ては、他の共同作業員に過重な負担を与える虞れがある。その他同人は就業中不平不満が多く他の従業員の作業妨害となる例が屡々である。

秋丸常雄は自動車運転手であるが、嘗て無断で原告会社の自家用車を使用して原告会社以外のものゝ貨物を運転した事実が表面化し、就業規定に違反するので解任せざるを得ない状態にあり、又整理解雇当時に於ては、労働意欲を欠如し、勤務不熱心で協力性を欠いていた。尚同人は運転手として単独営業出来る技倆を有するから解雇後他に就職出来ない場合も生活上苦痛を蒙らない。

桂藤兼雄は坑内夫であるが服務態度並びに採鉱技能が不良で向上しない自動車運転助手として就業させたことがあるが之も亦不適格として運転手から苦情不平の声が出たことがある。更に右の中加藤、前門、桑原、大沢は他数名の従業員と共に原告会社が企図している整理解雇者の中に自分等が該当すると推測し坑内爆破計画を謀議したことが発覚している。かゝる謀議に関与した者はその地位の如何を問わず従業中より排斥せらるべきことは当然である。

以上に掲げた様に加藤福夫外五名の解雇事由は夫々原告会社の解雇基準に該当するものである。

被告委員会は右従業員に対する解雇が実質的には同人等が労働組合結成に関与したことの故を以て為されたものと判断しているが、原告会社が右従業員を解雇した当時には適法な労働組合は結成されておらず、従つて原告会社の代表者自身労働組合結成の事情を知る由もなかつたのであるから、労働組合結成関与といふことを実質的な解雇の事由とする理由がない。即ち、原告会社の代表権限を有する鉱山事務所長矢野傑としては前述のような人員整理の必要に迫られた為、昭和二十八年五月二十八日、解雇すべき従業員の人選を決定し同日原告会社の門脇庶務係、鈴木労務係に解雇理由書を、翌二十九日同年五月三十日附で解雇辞令書を夫々作成させ、翌三十日午前十時頃鉱山事務所から直接に、又は被交付者の責任者に手交したものであるが、他方、勝光山労働組合が結成されたのは五月三十日であつて、原告会社の代表者矢野傑は五月三十一日朝九時頃自宅において三次労政事務所長から同日朝十時頃、鉱山事務所のある山内北村の駐在巡査から右組合結成の事実を聞いて始めて知つたのである。又同年五月二十六日、従業員中加藤福夫、前門豊実等極めて少数のものが中心となつて田ノ平公会堂に於て労働組合結成準備会を開いていたが、右会合は原告会社側に秘匿して隠密裏に従業員十名余が集合したに止まり、且つ会合の目的も集合する迄明示していないから前以て組合の結成が噂になる様なこともない。然も五月三十日の組合結成大会迄組合員獲得に積極的な活動をした者は加藤福夫、前門豊実、秋丸常夫位で従業員中には五月三十日の結成大会迄五月二十六日の準備会のあつたことを知らなかつた者さへある程である。況して原告会社の代表者矢野傑は当時高血圧の為、余り外部活動をして居なかつたので外部との折衝が少く、前述のように五月三十一日迄は組合結成に関する事情は知る由もなかつた。矢野傑以外の監督員職員に於ても同様である。

要するに原告会社が前記従業員に対して為した解雇は、同人等が労働組合結成に関与したこととは無関係のものである。

(ロ)  本件救済命令中に於て被告委員会は、原告会社が勝光山労働組合に対し労働組合法第七条第三号の支配介入を為したものと判断しているが、かゝる事実はない。被告委員会は原告会社の代表者矢野傑が昭和二十八年六月三、四日頃組合員たる自動車助手延原利夫に対し支配的言辞を弄したと認定しているがかゝる事実はないし、その他原告会社職員の言動に組合に対する支配介入があるとの認定についても、全て事実無根のことであつて、被告委員会の認定は審理不尽に基くものである。

又被告委員会は、原告会社の一監督が自ら発起人となつて。第二組合を結成し他の監督も組合員に名を列ね、職制を通じて第一組合員の引抜き、第一組合の切崩しを行つたと認定しているが、右認定は次に述べる如く事実誤認の違法あるものといわねばならない。

即ち、通称第二組合と称せられる合資会社勝光山鉱業所労働組合が昭和二十八年六月十四日結成され、右組合に、原告会社の監督員西谷寛、立森安市、久保田忠宏、後藤繁の四名が加入していることは争ないが原告会社には、被告委員会の主張する様な職制の制定はなく、原告会社の事務所に於ける使用者は事務所長矢野傑のみであつて、同人以外は全て機械的に事務又は労働に従事しているものに過ぎない。従つて右四名の監督員も各自使用者側たるの認識がないし、組合結成後も三次労政事務所長より同人等が組合に加入することにつき身分上の支障のない旨回答を受けて居る。第二組合が結成されるに至つた経緯は、第一組合の結成が思想的に偏向する従業員の一部によつて他の従業員に相談なく祕密裏に準備され思想的な支援団体の応援を求め、何処迄も闘争主義を以て一貫しようとする方針を掲げるのでこれに満足出来なかつた一部従業員が真に従業員の生活を擁護する公明正大で明朗な組合を作り上げようとして結成したものである。勿論原告会社側が第二組合結成を援助したり強要したりした事実はなく、第一組合員の引抜き行為等をした事は全然ない。

従つて通称第二組合が結成せられた事を以て原告会社が勝光山労働組合の運営に対し支配又は介入したとする被告委員会の認定は違法である。

結局、原告会社には被告委員会が救済命令に於て判断した如き不当労働行為は存しない。

(三)  命令中主文第二項の被告委員会が原告会社に対して抽象的な声明書の掲示を命じた部分は、一般的な法規を設定したと同一の結果となるから、救済命令の範囲を逸脱した違法がある。

即ち右声明書は原告会社に対し「会社は会社がこれまで組合に対して行つた行為が不当労働行為であることを認め、今後組合の運営を支配したりこれに介入するような言動は一切しない」といふ文言を会社の名を以て勝光山労働組合員に声明せよと命じているがこの声明書の掲示命令は単に掲示を強制する作為を命ずるのみではなく、一面その文書において将来組合に対し一切の支配介入をしないという不作為を原告会社に命ずる効力を内容としている。かような具体的事実を指摘しない抽象的制限は敢て被告委員会の命令を待つ迄もなく労働組合法に於て規定するところであり、使用者が既に法律によつてその遵守を強制せられて居る以上、更に救済命令を以て、かような蛇足を附け加える必要はない。加うるに右命令が確定し或ひは緊急命令が発せられたにも拘らず受命者が命令を履行しない場合には過料の制裁を受け又右命令が確定判決によつて支持せられた場合に於て違反があつた時には刑罰に処せられる旨の規定が存するのであつて、かゝる制裁の裏付を持つた法規を設定するに等しい命令を発することは労働委員会の権限を超えたものであり法律の領域を侵犯する違法があるといわねばならない。

第三、(一) 原告会社が本訴提起当時に於ては既に解散消滅していたから本訴は不適法であるとの被告委員会の抗弁について、

原告会社、株式会社矢野鉱業所及び株式会社勝光華商会の三会社の間に於て昭和二十八年五月十日、合併契約が締結されたことは認める。然し同年六月十日、右三社の間に於て各会社の株主及び出資者に対して、合併後設立する新会社の株式を割当る際の協定上、本件争議事件の処理を原告会社の負担事項とし、原告会社が清算事務として処理することを取決め同年九月三十日に開かれた新会社株式会社勝光山鉱業所の創立総会の席上、原告会社は本件争議事件の処理を新会社に承継せしめない旨を言明し、右総会の附議事項として承認議決されたものである。従つて原告会社は合併後に於ても清算事務の遂行として本件争議事件の処理に当り訴訟上原告たる当事者適格を有するものである。

被告委員会に於ても、原告会社の合併後、依然として原告会社を相手方として緊急命令の申立その他の手続を為しているが、このことは被告委員会自身本件争議事件の処理に関し原告会社の存続を肯定しているものといわねばならない。

仮りに、本件争議事件の処理については法律上、合併によつて設立された株式会社勝光山鉱業所が之に当るべきものであるとするなら合併三会社の間に於ては少くとも本件争議事件の処理を新会社の株式割当協定上原告会社の負担事項とする意思が合致していたのであるから、右合併契約は三会社の意思に反する結果になり要素に錯誤があるから右合併契約は無効のものといわねばならない。よつて既に東京地方裁判所に対し新会社の合併設立無効訴訟を提訴している。従つて原告会社は当然本件争議事件の処理に当ることが出来、本訴に於て原告としての適格を失わないものである。

(二) 原告会社は本訴に関し権利保護の利益を欠くとの抗弁について、この点に関する被告委員会の主張事実は之を否認する。尤も右命令によつて命ぜられた内容の声明書を原告会社以外の第三者が誤つて掲示した事実は存するけれども、これは原告会社の意思に基くものではない。原告会社の代表権限を有する矢野傑は、昭和二十八年九月二十七日から、同年十月三十一日迄盲腸炎手術加療の為入院して不在中でありその間他の職員に対し原告会社の代表権限を授権したことはないから原告会社が右命令の趣旨を履行したことにはならない。

従つて原告会社が被告委員会の命令を受諾した右命令に対する不服申立の権利を抛棄したと主張する被告委員会の抗弁は理由がない。と述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は先ず主文第一項と同旨の判決を求め本案前の抗弁として

(一)  原告会社は本訴提起当時、既に訴外株式会社勝光山鉱業所の設定に伴う合併により解散消滅していたものであり合併後に於て尚本件争議事件の処理を、原告会社の清算事務として留保することは法律上認められないから本訴は不適法であつて、右欠缺は補正出来ない。よつて訴却下の裁判が為さるべきものである。

(二)  又原告会社は、被告委員会の発した本件救済命令に基き昭和二十八年十月八日右命令書に記載された従業員全員を現職に復帰させ、同月十日、同年六月以後十月十四日迄の諸経費を同人等に支給し、右命令書に記載された趣旨の声明書を掲示して救済命令の内容を履行した。

従つて原告会社は被告委員会に対して右救済命令の取消を求める本訴提起の権利を抛棄したものである。

と述べ、次に本案について、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

原告の主張事実中第一の事実は全部認める。

第二の(一)については、訴外勝光山労働組合は、被告委員会に対し、救済の申立を為し得る適格を有するものである。

即ち右組合は、昭和二十八年五月二十六日夜、田ノ平部落、秋国公会堂に会社従業員十名及び会社の下請工場従業員一名が集まり、広島県北部地区労働組合会議書記長藤井正昭指導の下に組合の結成準備会を開催したがその過程に於てこれを結成大会に切替え、仮三役、組合組織拡張方針、組合大会開催日時等が決定され、こゝに組合が結成されるに至つたものである。

従つて、原告会社が同年五月三十日為した解雇については、組合は被告委員会に対して右解雇を不当労働行為として救済の申立を為し得る。

この点に関し、原告は、同年五月二十六日には組合規約が作成されて居らず、又仮三役の選任も組合員の直接無記名投票によつたものではないから、同日適法に組合が結成されていないと抗争するが、労働組合は、法律に定めた要件手続に則つて設立されることによつて始めて社会的団体として成立する株式会社や、財団法人等と異り、既に法律以前に社会的に存在する団体である点に特質があるのである。従つて労働組合法も自由設立主義をとり組合設立の要件や、手続を規定していない。されば労働組合が何時設立されたかといふ問題は、その実体によつて成否を決すべきものである。従つて当日文書による組合規約が作成されておらなかつたとしても、既に団体としての意思決定並びに役員選出が行われておれば組合としての成立を認めるべきである。

又仮りに同年五月二十六日組合が適法に結成されていなかつたとしても少くとも同年五月三十日には組合規約が審議確定され、且つ執行委員長一名、副執行委員長二名、書記長一名、執行委員四名、会計委員一名、会計監査三名が夫々組合員の直接無記名投票によつて選出されているので同年六月四日の被告委員会に対する本件救済申立時に於ては労働組合法第二条本文、第五条第二項の規定に適合する適法な組合が成立していることになる。組合員が組合を結成しようとした為使用者より解雇せられた場合に於ては組合の成立後組合の名に於て労働委員会に対し救済の申立を為し得べきものであるから、本件に於て組合が救済申立を為し得る適格を有することは当然である。

第二の(二)の(イ)については原告主張事実中原告会社が当時企業合理化の為に人員整理をしなければならなかつた必要は之を認めるけれども命令書に記載された従業員加藤福夫、秋丸常雄、前門豊実、桂藤兼雄、桑原恵文、大沢覚に対する本件解雇は、人員整理に便乗して為された、労働組合法第七条第一号違反の不当労働行為であつて原告の主張は当らない。

本件解雇を労働組合法第七条第一号違反の不当労働行為と認定した理由は、本件救済命令書記載の通りであるが之を要約すると被告委員会は被解雇者の範囲、解雇理由、組合結成と解雇時期の関係等を検討した結果原告会社は従業員百七十一名中十五名を解雇しているが、そのうち組合員が十四名であつて、然も当時組合員数は僅か三十数名に過ぎなかつた点、五月二十六日の組合結成大会に参加した従業員十名の中六名が解雇されている点、残留者四名は何れも組合結成に消極的であり、従つて組合員獲得工作にも冷淡であつた点、組合役員中解雇を免れた者は書記長石田清次郎、会計監査掘川秀登を除き、何れも五月二十六日の結成大会には参加していない点、右石田は原告会社の下請工場の従業員で原告会社とは雇傭関係がなく、右掘川はその後組合を脱退して、現在第二組合の執行委員となつている点解雇の理由が原告の主張するような解雇基準に該当しない点、解雇の時期が組合結成大会後の同年五月三十日から同年六月二十日の間に於て為された点等の諸点を認めることが出来たからである。

原告は、原告会社代表者が組合結成(原告の主張によれば組合の結成準備)の事実を知つたのは、原告会社が本件解雇を発表した後の五月三十一日であると主張するけれども、被告は諸般の事情から原告が組合結成の事実を知つたのは遅くとも五月二十七日であると認めたものである。

次に(ロ)の支配介入の点については、原告は組合を内部から切崩し、直接的に労働者の団結権を有名無実ならしむる為矢野所長及び監督的地位に在る者が組合に対し支配介入を行つたものであり、これは労働組合法第七条第三号の不当労働行為に該当する。元来使用者の支配介入は、極めて多種多様の形で行われるものであり且つ幾多の行為が綜合されて支配介入といふ結果を生み出すものであるから、多くの行為の内、個々の行為を抜き出してこれが支配介入の決定的要素であると認定することは不可能であつて、個々の言動を抽出して之を否認する原告の主張は当を得ない。組合に対する支配介入の事実があると認めた具体的理由は、救済命令書記載の通りである。

第二の(三)について原告は命令中主文第二項が労働委員会の権限を超えるものであると主張するが失当である。声明書に記載せられた内容は、行政庁たる被告委員会が労働組合法第七条をおうむ返しにしてそれと同様な法規範を設定したものではなく、原告の支配介入を認めた上、その妨害の禁止を実効あらしめる為には、本件の如き声明書の掲載が最も有効適切であると考えたからに外ならない。従つて本件声明書の記載内容は何等違法のものではないと述べた。(立証省略)

理由

先ず被告の本案前の抗弁について判断するのに、記録によると本訴は昭和二十八年十月二十六日に提起せられたことが明らかであるところ、成立に争のない乙第六号証によると原告会社は株式会社勝光華商会、株式会社矢野鉱業と合併して株式会社勝光山鉱業所が設立されたので同年十月十九日解散し、同日付を以て解散登記が為されていることが認められる。そうすると本訴提起当時に於ては原告会社は既に解散して存在しなかつたものである。

原告はこの点に関し、同年六月十日合併前の右三会社の間に於て、合併後も本件争議事件の処理は、原告会社の負担事項とし、原告会社が処理解決する旨協定が成立し、同年九月三十日の創立総会に於て附議され、承認議決されたと主張するが右事実を認めるに足る証拠はない。

仮りに右三会社の合併契約に於て本件争議事件の処理を原告会社に委ねる趣旨の特約が為されたとするも、右特約は無効と謂うべきである。想うに商法第百三条によれば会社合併の場合に於て、合併により消滅する会社は、合併と同時に人格を失いその権利義務は合併後存続する会社又は合併により設立された会社に法律上当然包活的に承継せらるべきものであつて、合併契約において合併により消滅する会社の権利義務の一部を留保してその範囲で同会社を存続せしめるという特約を締結しても右は合併の本質に反するものとして無効といわなければならない。

原告は、前記合併契約においては原告会社が本件争議事件の処理を担当することを契約の要素としたのであるから、合併により原告会社が法律上当然に消滅するものとすれば右合併契約は無効というべく、(現在株式会社勝光山鉱業所の合併設立無効の訴が東京地方裁判所に繋属中である)原告会社は存続している、と主張するけれども、合併設立無効の効果は法律上右訴に基く確定判決があつて始めて発生するものであるから前記合併無効の確定判決があつたことの主張なく、又右事実を認めることの出来ない現段階に於て合併無効を前提にする所論は採用できない。

そうすると原告会社は本訴提起当時に於ては既に存在しなかつた訳であるから、本訴は更に進んで判断を加える迄もなく不適法として却下すべきものである。

そこで訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十八条第二項、第九十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮田信夫 竹村寿 田辺博介)

(別紙)

命令書

申立人 勝光山労働組合

被申立人 合資会社勝光山鉱業所

右当事者間の広労委昭和二十八年不第六号事件について、昭和二十八年九月九日第一〇三回公益委員会議において会長公益委員桑原五郎、公益委員河野実、同本間大吉、同高洲一美、同橘高勇夫出席合議のうえ、左のとおり命令する。

主文

一、被申立人は加藤福夫、秋丸常雄、前門豊実、桂藤兼雄に対する昭和二十八年五月三十日付、桑原恵文に対する同年六月十八日付、および大沢覚に対する同年六月二十日付の各解雇を取消し、解雇当時の原職またはこれと同等の職に復帰させるとともに解雇後右復帰まで原職にあつたと同様の給与相当額を支給すること。

二、会社は次のような声明書を縦二尺横三尺の木版に筆太に墨書し、左記個所の見易いところにそれぞれ一週間掲示すること。

声名書

会社は会社がこれまで組合に対して行つた行為が不当労働行為であることを認め今後組合の運営を支配したり、これに介入するような言動は一切しない。

右広島県地方労働委員の命令によつて声明する。

昭和二十八年 月 日(掲示の日)

合資会社 勝光山鉱業所

代表社員 向井毅雄

右代理人 矢野傑

勝光山労働組合諸君

(掲示場所)

一、会社事務所

一、滝ノ谷現場事務所

一、西山一号現場事務所

一、西山三号現場事務所

一、徳山工場

一、第二工場

一、第三工場

三、右各項はこの命令交付の日から七日以内に履行するとゝもに速かにその状況を当委員会に文書をもつて報告すること。

四、申立人のその余の申立は、これを棄却する。

理由以下省略

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